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「退魔光剣シェルザード!」第三章(ぜんぶ)

 

当ブログ内連載小説『退魔光剣シェルザード!』

一気読み用の第三章「ぜんぶ」版です(≧▽≦)

それでは「続きを読む」からどうぞ☆

  

ちなみに第二章はこちらから★
http://yuya2001.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/post-10a0.html

 

 

第三章 魔道を使う妙なネコ
 
     1

 そのただならぬ気配に最初に気付いたのはジークであった。
「ん?」
 ジークは二日酔いでボーッとする頭を懸命にこらしてその気を探っていたが、すぐにその顔が引き締まった戦士の表情に変わっていった。
「……ヒョウ!」
 ジークが鋭くささやきかける。
「ああ……わかってる」
 ヒョウは目でうなづくと、レイピアの柄に手をかけた。
「ねぇ、どうしたの?」
 一人キョトンとしているクリスがジークに問いかける。
「……どうやら油断しちまったみたいだな」
 ジークが軽く舌打ちする。
「すげぇ殺気だ……囲まれてるぜ」
「えっ!?」
 クリスももちろんただの女の子ではない。言われてみると自分たちを中心に凄まじいまでの殺気が渦巻いているのに気付いて、クリスは身体に戦慄が走るのを感じた。
 その時、突然クリスの乗っていた馬がヒヒンと暴れ出すと、クリスを振り落として後方へと一目散に走り出した!
「きゃっ!?」
 得意の身のこなしで、何とか怪我をせずにすんだクリスであったが、その目の前で、同じようにジークとヒョウの乗馬も荒れ狂い始める。
「くっ!」
 とても抑えきれる状態ではない。やもなくジークとヒョウが飛び降りると、馬達はたちまち走り去ってしまった。まるで迫る恐怖から本能的に逃げ出そうとするかのように。
 --クックックックッ。
 どこからともなく笑い声が聞こえてきた。
 --辺境警備隊を壊滅させたというからどんな奴らかと思えば、ガキが3人とはな。拍子抜けもいいところよ。
「……岩陰に隠れてるのはわかってるんだぜ」
 嘲笑の声にも顔色一つ変えずに、ジークは言い放った。
「つまらねぇ隠れん坊はやめて出てきやがったらどうだ?」
 --クックックッ、いいだろう。
 声が答えると、周囲の岩陰から次々と、トロール、オーガーなどの強力な魔物が次々と姿を現した。
 どの魔物も鉄の鎧に身を固め、様々な得物を構えて凶悪な笑みを浮かべている。
 その数、ざっと十余匹!
 --貴様らごときに俺が出る必要はあるまい。俺の部下達がせいぜい可愛がってやるとしよう。
 グヘヘヘ、その声の命に魔物達は不気味に笑った。
「……おい、ジーク」
 じりじりと包囲の輪を狭めてくる魔物達の動きに油断無く目を光らせながら、ヒョウはジークにささやきかけた。
「何だ?」
「……オレに策がある。ここはもうこれしかない」
 自信ありげなヒョウに、ジークが興味深そうに視線を送る。
「オレとお前で闘えばこいつら自体には何とか勝てるだろう。だが問題なのはクリスチャンの事だ。彼女を危険な目に会わすワケにはいかないだろう」
「ああ」
 うなづくジークに、ヒョウは真剣そのものといった顔をして続けた。
「そこで考えたんだが……」
 その瞬間、突然ヒョウはクリスの肩をつかんでグイと引き寄せると、キッパリとジークに言い放った。
「オレはクリスちゃんを連れて逃がすから、お前は頑張ってこいつらを食い止めておいてくれ!」
 ヒョウが『後は任せた』とばかりにジークの肩をポンとたたく。
「ちょ、ちょっと待ちやがれ!!」
 慌てて何か言い返そうとしたジークだったが時にすでに遅く、ヒョウはクリスの手をつかむと全速力で駆け出していた。
 じゃあな~~! 手を振るヒョウの姿がどんどん遠くなっていく。
「じゃ、じゃあなじゃねぇ! 俺はどうなるんだ、おい!?」
 思わず狼狽するジークだったが、その背後から強烈な殺気が迫るのを感じてそ-っと振り返った。
 その視界に飛び込んできたのは、一斉に襲いかかってくるガロウ軍の魔物達であった!
「どえええええええっっ!」
 ジークの絶叫。そしてその姿はそのまま、魔物の群の中に飲み込まれるようにして消えていった。

     2
 
「ハァ、ハァ……ここまで来ればいいだろう」
 ヒョウは額に噴き出た汗をぬぐうと、クリスに向かって優しく微笑みかけた。
「クリスさん、大丈夫ですか?」
「う、うん、ボクは平気だけど……」
 荒く息を整えながらクリスは答えた。だがその声は不安そうである。
「ね、ねぇ、ジークはどうなっちゃったの??」
 クリスはわけがわからない内に、ヒョウに強引に引っ張られてこられたため、ヒョウとジークの間に交わされた会話を知らない。
「ジークは……多分もう戻ってこない」
 ヒョウはわざと表情を曇らせて言った。
「えっ……!?」
「あいつはオレ達を逃がすために『自分から』犠牲になってくれたんだ……」
「そ、そんなぁ!」
 クリスは悲鳴を上げると、慌てて元来た方向へと駆け出そうとした。
 その腕をヒョウがつかみ、止める。
「放して! 急がないとジークが死んじゃうよぉ!」
 ベソをかきかきヒョウの手を振りほどこうとするクリスであったが、ヒョウは放そうとしない。
「ヒョウさん、放して! お願いよ!」
「……駄目だ!!」
 ビクッ、意外なほど厳しいヒョウの口調に、思わずクリスは動きを止める。
「クリスさん、君はジークの想いを無駄にするつもりか!? 奴はオレ達に生きろと言ったんだ。俺の事はどうでもいいから逃げろ、逃げて生き延びろって言ったんだよ! 今戻ることは奴の最後の想いを踏みにじることになるんだ!」
 とても置き去りにしてきた奴のセリフとは思えないが、ヒョウの演技は完璧だった。
 ヒョウはクリスの嗚咽に震える肩に優しく両手を置くと、そのつぶらな瞳をじっとのぞきこんだ。
「君の気持ちはわかる……でもオレだって本当はつらいんだ……」
 キラリ、ヒョウの瞳に涙が光る。ヒョウは涙をクリスに見られまいと顔を背けた。
(そうだよね……何だかんだ言ってもヒョウさんは本当はジークの事を……それなのにボクったらそんな気持ちもわかんないで……)
 とんでもない誤解であるが、これこそヒョウの思う壺であった。ヒョウはクリスの表情の変化から素早くそれを読み取ると、ゆっくりとクリスの瞳に視線を戻した。
「クリスさん……!」
 突然ヒョウは肩に乗せた手に力を入れると、グイとクリスを胸に抱き寄せた。
「キャッ!?」
 クリスはさすがに驚いたが、ヒョウに対して好意を抱いた矢先であったので、すぐに抵抗するのを止めた。
 さすがは天下のプレイボーイ、ヒョウ・アウグトース。まさに恐るべきまでの絶妙のタイミングである。
(決まったな……)
 ヒョウは心の中でほくそ笑むと、再びクリスの瞳を見つめ続ける。
(ここまで来たら言葉は必要ないぜ。後はムードで一気に押し流す!)
 しばらく二人は無言で見つめ合っていたが、やがてヒョウの方からゆっくりと顔を近付けてきた。
 クリスはドキッとしたがすでにヒョウの呪縛にかかっている。結局そのまま目を閉じるとヒョウの動きに身を任せてしまった。
「……クリスさん」
 二人の間の距離が急速に狭まって行く。
 そしてヒョウの勝利の想いとともに、唇と唇が触れ合おうとした……その直前!
「ヒョウ~~て-め-え-はな~~!!」
「どわぁぁぁぁぁ!?」
 突然ぬぼ-っと現れた血塗れのジークを見て、思わずヒョウはのけぞった。
「ジ、ジーク!!」
 瞬間、我に返ったクリスの顔がパッと明るくなる。
「あ、あはは、なーんだ生きてたのか」
「あったりめぇだ! どうせこんなこったろうと思って急いで良かったぜ」
 ジークはワナワナと怒りに震える手で、ヒョウの胸ぐらをつかんだ。
「おいおい何すんだよ、生きてたんだから良かったじゃないか」
 あはははは、ヒョウは爽やかに笑ってみせる。
「ちっとも良かねぇ! 人がどんだけ苦労したと思ってやがんだ!!」
「まぁまぁ、落ち着いて、落ち着いて。まぁもう過ぎたことだし、パーッと水に流そう、パーッと!」
「て~め~え~は~な~!!」
 ジークが怒りに震えて拳を振り上げる。
 が、そのとき、ヒョウがジークの後ろを指差して叫んだ。
「お、おい、ジーク! ちょっとあれ見ろ!」
「やかましい! ごまかすんじゃねぇ!!」
 グッ、ますますジークの拳に力が入る。
「お、おい、信じろ! マジだマジ!!」
「本当だよジーク! 後ろっ!」
「何!?」
 クリスまでが指差すので、ジークはさすがに拳を止めて振り返ってみた。
 そこにはいつの間に現れたのか、一人の筋骨たくましい、いかにも武人めいた中年の男が立っていた。その顔にはニヤニヤと不敵な笑みが浮かび、ジークの方をじっと見つめている。
「フフフ、なかなかやるではないか小僧。どうやら貴様を見くびっていたようだ……我がガロウ侵攻隊の精鋭をことごとく倒すとはな」
 しかしそのわりには、むしろその声は喜びに満ちているようである。
「ククク、面白い。こうでなくてはな、わざわざ俺が来た甲斐が無いというものよ。喜ぶがいい小僧、貴様はこのガロウ四天王の一人、ダルシス様がじきじきに葬ってやろう……!」
 はあぁぁぁぁぁっ、不気味な呼吸音と共にダルシスの両手が複雑な構えをとってゆく。そしてその動きに呼応するかのように、ダルシスの全身から膨大な量の《闘気》が渦を巻いて立ち昇った!
「と……《闘気》っ!? それも何て量だ!」
 すかさずジークが剣を構える。その瞬間、ダルシスの目がギラリと光ると、爆発的な勢いでジークめがけて突進した!
「ゆくぞ、小僧!」
 ボムッ! ダルシスの右手に《闘気》が集う!
「カイザン龍皇拳、《襲牙突槍》!」
 うなりをあげてダルシスの右手がジークめがけて襲いかかる!
「くっ!?」
 かろうじて身をかわしたジーク。だがその時、かすめただけのはずの肩口が大きく裂け、鮮血があたりを朱に染めた!
「キャァッ!?」
 クリスのの悲鳴の中、ダルシスの左手による第二撃がジークに迫る!
「ちぃ!」
 間一髪、ダルシスの手刀はジークの頬をかすめていった。
「この野郎!」
 頬から血が噴き出るのにもかまわず、ジークは同じく《闘気》を身に纏うと、体勢を立て直すと同時にダルシスの左手めがけて斬りかかった!
 だがそんな必殺の一撃をかわそうともせずに余裕の笑みを浮かべるダルシス。
 ガシィィィ!!
「何だと!?」
 ジークは一瞬我が目を疑った。まるで鉄の塊にでも斬りつけたかのような手応えと共に、ジークの剣はダルシスの左手に受け止められていたのである!
「うそっ!?」
 唖然と叫ぶクリスの横で、ヒョウがうめくようにつぶやいた。
「あ、あれはまさか《カイザン流武闘術》……」
「カイザン流武闘術!?」
「オレも見たのは初めてだが……はるか東方の古王国カイザンには、《闘気》を用いて素手で敵を殺すことを目的とした二千年の歴史を持つ秘拳があるという……それが《カイザン流武闘術》……もしかしたら奴はその一派なのかもしれない」
「じゃ、じゃああいつは殺しのプロだってこと!?」
 そんな二人の会話の合間にも、ジークとダルシスの激闘は続いていた。
「ふははははは、さすがだな! こうでなくては面白くないと言うものよ!」
 哄笑と共に無数のダルシスの突きがジークめがけて襲いかかる。
「くっ!」
 ジークはそれらをことごとく剣で受けきったものの、ダルシスの凄まじいまでの剣圧に身体が泳いでしまった。
 そしてその好機を逃すダルシスではない。
「くらえっ! カイザン龍皇拳奥義……《龍撃衝》!」
 ゴオオオオッ! ダルシスの右の拳底突きがうなる!
「ぐはっ!?」
 直撃を受け鉄の鎧の胸部が砕け散ると、そのままジークの身体が大きく弾き飛ばされる。 どしゃぁぁぁ! 勢いよく地面に叩き付けられてジークの口から血が噴き出る。直撃する前に咄嗟に身をのけぞらせていたのと、《闘気》を瞬時に高めていなければ、致命傷になっていたほどの一撃だった。
「くくく、なかなか見事な反射神経だな。本来なら今の一撃で貴様の身体には風穴が空いていたものを」
「……へっ、それはこっちのセリフだぜ」
 ジークはペッと口の中の血を吐き捨てると、よろめきながら立ち上がった。
「てめぇの拳がもう一瞬遅けりゃ、今頃てめぇの首が飛んでたってのによ」
「何?」
 そのときダルシスの首筋にかすかな痛みが走った。
「ま、まさか!?」
 慌てて首筋を押さえた手にぬめりとした感触を覚えて、ダルシスの顔が驚愕に歪む。
(こ、こいつ、いつの間に!?)
 そんなダルシスの前で、ジークが不敵に笑う。
「こう見えても《カイザン流武闘術》となら、これまでに何度か闘ったことがあるんだよな。流派は微妙に違うみたいだが、おかげである程度は見切れたぜ」
「何だと?」
 その言葉を受けてダルシスが急にハッとなる。
「そう言えば、まだ若いのに《闘気》を操る『謎の武術大会荒し』がいるという話を聞いたことがある……もしや貴様か!?」
「フッ……まぁ『武者修行』みたいなもんさ。それに何せその手の大会の優勝賞金はトロキアにとっては貴重な臨時収入になるしな!」
(……それって「武者修行」って言うよりむしろ「出稼ぎ」なんじゃ……)
 多少呆れはしたものの、クリスは少し希望を感じてジークを見つめた。
(でも、てことはまだまだ充分勝ち目があるってことよね……!)
 そんなクリスの視線の先で、ジークは剣を両手で構え直すと、挑むように言い放つ!
「さぁ、勝負はこれからだぜ! ダルシスさんとやら!」
「なるほど……少しお前のことを甘く見ていたようだ」
 スッ……ダルシスの顔からそれまでの嘲るような表情が消える。そして代わりに浮かび上がったのは、得物を確実にしとめんとする冷徹な狩人の顔だった!
「ならもう遊びは終わりだ……」
 瞬間、以前にも増した凄まじい《闘気》がダルシスの全身にみなぎる。そしてダルシスは手刀を構えると、勢いよくジークめがけて襲いかかった!
「その身体、一片余すところ無くズタズタに引き裂いてくれるわっ!」
     
     3

 拳がうなる。血しぶきが舞う。
 ジークとダルシスの死闘はいよいよその激しさを増していった。
 あたりはすでに真っ赤に血で染まっている。だが、そのほとんどはジークの身体から飛び散ったものだった。
 今やジークはダルシスの猛攻の前に圧倒的に押されていた。二人の間を飛び交うのはほとんどがダルシスの拳のみで、ジークはそれをかろうじて受けるといった有り様である。
 しかしこれも無理はない。いくら強いと言っても今日のジークは二日酔いの上、ダルシス配下の侵攻隊との闘いで受けた累積ダメージもある。むしろ、何とか渡り合えていることさえ奇跡に近かった。
「ぐははははは! 切れろ、切れろ、切れろぅ!」
 返り血に染まった顔を歓喜に歪めて、ダルシスは次々と手刀を放つ!
 その一撃一撃がジークの鎧を易々と切り裂き、新たなる流血を生んだ。
「ち……畜生!」
 何とか隙を見てジークの剣が一閃するも、ダルシスに紙一重で見切られ、むなしく宙を斬る。
「無駄だ! 小僧!」
 ダルシスの膝蹴りが容赦なくジークの腹に叩き込まれた! ぐふっ! たまらずジークの身体が後ろに吹き飛ぶ。
「いやあぁぁぁっ! ジーク!!」
 二人の闘いを泣きそうな顔で見守っていたクリスが、たまらず顔を背ける。
「お願いヒョウさん! ジークを……ジークを助けてあげてぇ!」
 ヒョウの腕にすがりつくクリス。だが、ヒョウは蒼白な顔で立ちつくしているだけで答えない。
「……ジーク!」
 いてもたってもいられなくなって、クリスはナイフを抜くとジークを助けに駆け出そうとした。
 だが、それをヒョウがすかさず止める。
「放して! ジークを助けなきゃ!!」
「ムリだ……」
 じたばたと抵抗するクリスに、ヒョウは努めて冷静な口調で告げた。
「レベルが違いすぎる。オレ達では行っても奴に一撃で倒されるだけだ……」
 今度は前回のような演技ではない。これはヒョウの偽らざる本心であった。
「ねぇ、なら魔道は!? ヒョウさんの魔道なら……」
「ダメだ……二人の位置が近すぎて、これではジークも巻き添えにしてしまう」
「そ、そんなぁ……」
 クリスはとうとう絶望のあまり泣き出してしまった。
(弱ったな……)
 「女泣かせ」を自負するヒョウだったが、こういう理由で泣かれるのには非常に弱かった。
「……くそっ、ジークが《バーサーク》でもしていれば……!」
 それはヒョウがほとんど無意識の内に発したつぶやきだったが、それを耳にしてクリスはハッと息を飲んだ。
(そうだ、まだジークには《バーサーク》があった! そしたら勝てるかも!)
 そのとき、クリスの脳裏にある一つの方法が閃いたが、しかしさすがに顔を赤くしてうつむいてしまう。
(そ、そんな……いくら何でも……!)
 だが、そんな想いをよそに、目の前の死闘はいよいよ決着の時を迎えつつあった。
「カイザン龍皇拳奥義! 《龍牙砲》!」
 バキィィ、鈍い音を立ててダルシスの左肘がジークの胸元に炸裂する!
「ぐ……はっ……!」
 あばらにヒビでも入ったのか、ジークの口から血があふれ出す。その瞬間、ジークの身体を包んでいた《闘気》がスッと消滅した。
「ジ、ジーク!」
 そしてそのまま崩れ落ちるジークの姿を見た時、クリスの迷いは吹き飛んだ。
「くくく……どうやらここまでのようだな」
 ダルシスは破壊された鎧の胸元を押さえて苦しげにのたうつジークを残忍な笑みと共に見下ろすと、手刀を高々と振り上げた。
「なかなか楽しませてもらったぞ。だがもうそろそろ死ぬがいい!」
 ダルシスの手刀に《闘気》が集まり、巨大な刃を形どる!
「とどめだ! カイザン龍皇拳奥義……!」  
 ダルシスの必殺の手刀が今まさに振り下ろされようとした--その時だった!
「ジーク!!!」
 突然のクリスの絶叫に、ジークは薄れかけていた意識を取り戻した。
(クリス……?)
 そんなジークの耳にクリスの次の叫びが飛び込んできた。
「お願い……こっちを見て!!」
 その必死の叫び声に、ジークは最後の力を振り絞って声のする方へと顔を向けた。
「………………えい!!」
 その瞬間、クリスは激しい羞恥に頬を真っ赤に染めながらも、上半身の胸当てと服とを勢いよく脱ぎ捨てた! 
「なっ!?」
 クリスの突然の行動に、ヒョウとダルシスの目が唖然と見開かれる。そんな男達の視線の先で、クリスの白く可憐な胸の膨らみがぷるんと小さく揺れていた。
「どわああぁぁぁ??」
 鎧の下からこぼれ出たクリスの胸をモロに見てしまったジークの鼻から、大量の血が噴き出す。
「も……もうダメェェェッ!!」
 我慢できたのはほんの一瞬で、クリスはたまらずに腕で覆ってしゃがみこんでしまったが、すでに彼女の愛らしい膨らみはジークの網膜にしっかり焼き付けられていた。
 そしてジークの頭の中で、女性に対する恐怖と欲望が激しくぶつかり合い--次の瞬間、ジークの理性は砕け散った!!
「……何っ!?」
 それまで思わず頬を緩めてクリスを眺めていたダルシスだったが、不意に真下から圧倒的な《闘気》の奔流を感じ、一瞬で我に返ると、視線を下に向けた。
 そのダルシスの目が驚愕に見開かれる!
 そこにいたのはそれまでの半死人のジークではない。目を飢えた狼のように光らせ、全身に殺気をみなぎらせたその姿は、まさに--《狂戦士(バーサーカー)》!
「ウ……ガァァァァァッッ!!」
 ジークは勢いよく跳ね起きると、今までに数倍する爆発的なスピードでダルシスに斬りかかった!
「なっ!?」
 かろうじてダルシスはその一撃を《闘気》をまとった左腕で受け止めたが、それまで傷一つ付かなかった腕から鮮血がほとばしる!
「ば、馬鹿な!?」
 鋭い痛みにダルシスの顔が引きつる。しかしジークの反撃は、今始まったばかりであった!!
「ガァァァァァッ!」
 野獣のような咆哮を上げて、ジークの斬撃が次々とダルシスに襲いかかる!
「ぐほっ! ぐはっ! ぐおっ!」
 瞬く間にダルシスの鋼鉄の肉体が朱に染まっていく。
 もはや形勢は完全に逆転していた。さしものダルシスも、もはやジークの剣を受けるのでやっとの状態であった。
「ぐはぁっ!」
 ジークの猛烈な一撃を受けて、ダルシスの身体が大きくはね飛ばされる。
「き、貴様……」
 ダルシスはうめくようにつぶやきながら、よろよろと身を起こした。
「化け物、か……?」
 その瞳には、憎悪と恐怖の色がありありと浮かんでいた。
 そんなダルシスに向かって、目を狂気に赤く光らせたジークが、燃え上がるかのような《闘気》とともに歩み寄る。
「こんな馬鹿な……俺が……この俺がっ……!」
 ダルシスは絶叫すると、残るすべての《闘気》を右の手刀にこめて、ジークめがけて突進した!
「こんなガキに……負けてたまるかっ!!」
 バシュウッ! だがその手刀の一撃は空しく宙を貫き、逆にジークの刃がダルシスの身体を深々と突き通していた。
「そ……そんな……このダルシス様が……」
 ダルシスは胸からあふれる血を信じられぬといったように見つめていたが、ジークが剣を引き抜くと同時に、ゆっくりと前のめりに崩れていく。
「こんなガキに……ま、け、る……!?」
 どしゃぁぁぁぁ、鈍い音を立ててダルシスの身体が地面に倒れた。
 そしてその瞬間、獲物を屠ったジークは、ハッと《バーサーク》から我に返った。
「ふう……恐ろしい奴だった……ぜ」
 ジークもまたがっくりと膝を付く。ダルシスとの死闘により、体中に傷を負い、また《バーサーク》による体力の消耗もあって、ジークもまた限界だったのだ。
 ぜーぜーと荒い息を吐きながら、額の汗をぬぐうジーク。
「まぁ紙一重とはいえ、何とか勝てて良かった……って、痛ぇ!?」
 突然後ろから容赦なくどつかれて、ジークが地面に突っ伏す。
 その後ろには、ぷんぷん膨れたクリスが、拳を握りしめて立っていた。もちろん服はちゃんと着直している。
「この馬鹿っ! 純真な乙女になんてことさせんのよ! いい? もうこんな恥ずかしいことボクは絶対やんないからね!!」
 顔を真っ赤にしたクリスが、ジークをどつきまくる。ダルシス顔負けのラッシュだった。
「痛い、痛い、痛い、ちょっと待て俺は怪我人……って、やめて、ホントにやめて! 死ぬ! それ以上殴られたら死ぬから!!」
 ボコボコにされて意識が朦朧とするジークだったが、不意に攻撃が止んだかと思うと暖かい感触に包まれるのを感じて、ハッと我に返った。
「やられちゃうんじゃないかって思ったんだからぁ……馬鹿……」
 その時になって初めてジークはクリスが泣いていることに気が付いた。クリスはジークをギュッと抱きしめると、ひっくひっくとすすり泣いていた。
 クリスに密着されて、最初は反射的に恐怖を感じたものの、何故だか不思議に心が安まるのを感じてジークは戸惑った。
 そして同時に、何か良く分からない気持ちが心の底からこみ上げてくるのを感じ、ますます戸惑うジーク。これまで感じてきた女性に対する恐怖とは全然違う、この気持ちは一体何なんだ??
 だがそんな戸惑いを破るように、突然、ヒョウの叫びがジークの耳に飛び込んできた。
「おい、ジーク! 油断するな! まだ何か来るぞ!?」
 それまでそんな二人の様子を面白くなさそうに眺めていたヒョウが、新たに迫る巨大な気を感じて、ハッと空を仰いだ。
 その声にすかさず反応して、鋭い戦士の顔に戻ると同じく空を仰いだジークの瞳が、思わず驚愕に見開かれる!
 ジークの瞳に映ったのは、漆黒の翼を持った巨大な生物の姿であった。
 その姿はまさに禍々しき闇の化身!
「ブ、ブラック・ドラゴンだとぉ!?」
「な、何でそんなのまで出てくるのよ~!?」
 一転してパニックに陥るジーク達を、はるか上空から見下ろす影があった。
「フッ、しかしガロウ様も用心深いお方よ。万一に備えて俺にまで出撃を命じるとはな」
 騎竜である《天魔竜(アーク・ドラゴン)》タナシスに語りかけたのは、ガロウ四天王の一人シグマである。
「ダガコノ場合、好都合ダッタト言ウベキデハナイカ?」
 タナシスがくぐもった声で答える。
「その通りだ。フン、それにしてもダルシスともあろう男が不甲斐ない!」
 シグマは蔑むようにつぶやいた。
「ダガ、だるしすハマダ生キテイルヨウダ。見捨テルワケニモイクマイ?」
「まぁな、まずダルシスを助けて、それからあのガキ共を冥土に送ってやるとしよう。行くぞ、タナシス!」
 シグマの号令の下、黒き魔竜タナシスはその巨大な翼を翻らせ、一気に急降下をしかけた!
「どわぁぁぁっ!?」
 慌ててよけようとするジーク達に、強烈な突風が襲いかかる!
 巻き起こる砂埃とともに吹き飛ばされ、ジーク達の身体が地面を転がった。
 そしてタナシスの巨体が再び上空に舞い上がった時には、すでにダルシスの姿は消えていた。
「!?」
 魔竜の姿を追って再び空を仰いだジーク達の視線の先で、タナシスがその牙をむき出しにして、大きく息を吸いこんでいる!
「や、やばい、ブレスが来るぞっ!」
 ヒョウが叫んだその瞬間、黒き魔竜の口から目もくらむばかりの閃光がほとばしった!
「きゃああああっ!?」
 ゴオオオオン! 閃光のブレスはジーク達のすぐ側を直撃し、爆音と共に地面を吹き飛ばした。ジーク達の身体もその衝撃に大きく揺れる。
「ククク、さぁ次は当ててやるぞ」
 ダルシスを腕に抱いたシグマが、まるで狩りでも楽しむかのようにせせら笑う。
 ドゴーン! ズガーン! タナシスのブレスが次々と至近距離で炸裂し、その度にジーク達は悲鳴とともに二転三転と転がりまくった。
「くそっ! 喰らえっ! 《魔道弾(マジック・ミサイル)》!」
 ヒョウが何とかスキを見て呪文を唱えると、魔道の光弾がその手の平から放たれた!
 だが、その光弾の直撃を受けても、黒き魔竜には全く効いた様子も無い。
「バカな!? オレの魔道が!?」
「その程度のチンケな魔道がこの《天魔竜》に通じるか!」
 シグマはせせら笑うと、魔竜のブレスによる空爆を再開させた。
「くそっ……あんな化け物、どうすりゃいいんだ!?」
 歯がみをするジークであったが、すぐ近くにまたもやブレスが着弾し、その衝撃になすすべもなく吹き飛ばされてしまう。ヒョウやクリスもほとんど同じ状態だった。
「フッ……そろそろいいだろう」
 あきらかにシグマはジーク達を嬲っていたが、その嗜虐心を満足させたのか、残忍な笑みを浮かべるとタナシスに命じた。
「やれ、タナシス! とどめだ!!」
 くわっ! タナシスの口が大きく開かれる。それを待ち受けるジーク達は、すでに地面にはいつくばったまま、立ち上がる気力さえ失いかけていた。
「今度こそ最期だ! 死ねぇっ!」
 カッ! シグマの勝ち誇った叫びと共に、タナシスの口が激しく光る!
(もう……ダメ……っ!)
 クリスは観念して目をギュッとつむり、せめて痛みが一瞬で終わるよう神に祈った。
 ゴオオオオッッ!!
 閃光と共に必殺のブレスがほとばしり、もはや逃げることもできないジーク達めがけ、大気を焦がして突き進んで行った!

      4

(あれ……?)
 クリスはいつまでたっても痛みが襲ってこないのを不思議に思って、うっすらと目を開いてみた。
「えっ?」
 そのクリスは目が驚きで見開かれる。
「な、何だとぅ!?」
 一方、上空ではシグマが驚愕の叫びを上げる。
 タナシスの口からほとばしった閃光のブレスが、ジーク達に命中する直前、まるでそこに見えない壁でもあるかのようにして、すべて弾き返されているのである!
「ば、馬鹿な……これは一体!?」
 結局、タナシスのブレス連射はジーク達に傷一つ付けるでなく、完全に防ぎきられてしまった。
「アレハ……間違イナイ。《結界(ばりやー)》ノ呪文ダ」
「《結界》だと!? では敵にはそれ程強力な魔道士がいるというのか!?」
「イヤ、オソラクアノ三人デハナイ。何カ別ノ--ソレモトテツモナク巨大ナ力ノ存在ヲ感ジル……」
 《竜の支配者》ガロウ伯爵配下のドラゴン族の中でも最強を誇る《天魔竜(アーク・ドラゴン)》タナシス--だが、今その声の中には明らかな戦慄の色があった。
「しぐまヨ……悪イコトハ言ワン、ココハ一旦引クベキダ……敵ノ正体ガワカラン以上、ウカツニ手ヲ出スノハマズイ」
「くっ、おのれ!」
 シグマは歯がみをしたが、理性がタナシスの意見の正しさを認めていた。それにこれ以上時間を費やせば、ダルシスの命にも関わってくる。
「チッ、仕方ない。奴らはまた次の機会にしとめてやることにしよう……」
 行くぞタナシス! シグマがグイッと手綱を引くと、タナシスはその巨体を旋回させて、元来た方向--《竜の台地》へと飛び去って行った。
「何が起こったんだぁ? 一体……」
 後には思わぬ展開に唖然としたままのジーク達が、ポツンと取り残された。
「とにかく助かったのよね……?」
 恐る恐るクリスはつぶやくと、自分たちの周りをぐるりと取り囲むようにしてほのかに輝いていた薄い青色の光の膜を眺めた。それこそが、タナシスのブレスを弾き返した見えない壁の正体であった。
「これは魔道の力だ……恐らく《結界》の呪文だな。それもかなり強力な」
 ヒョウが思わず感嘆の声を漏らしたその瞬間、光の膜がまるで役目を終えたとばかりに砕け散った。
 しかしそれだけではない。砕け散った光の膜がまるで柔らかな雨のようにジーク達に降り注いだかと思うと、何と三人の受けた傷がたちどころに癒えていく! 光が完全に消え去った時には、かなりの重傷であったジークでさえ、普通に動けるレベルにまで回復していた。
「さらに《回復の光雨(ヒーリング・シャワー)》まで!? い、一体どこの誰がこれほどの大呪文を連発してるんだ!?」
 ヒョウの感嘆がいまや驚愕に変わる。
「まぁとりあえずお前じゃないことだけはわかるけどな。どう考えてもお前のレベルじゃ逆立ちしたって無理そうだし」
「……えらく言いたい事を言ってくれるじゃないか、ジーク」
「事実だろ?」
 バチバチ、久しぶりに二人が火花を散らす。
「もう……助かったと思ったらすぐケンカするんだからぁ」
 呆れ半分で二人を分けるクリス。
「でも、本当に一体誰が助けてくれたんだろう?」
 その時であった。
「ワシじゃよ、ワシ。ワシが《結界》を敷いてやったんじゃ」
 不意にまるでとぼけたような、のんびりした声がした。
「え、誰だ今の?」
「どこにいるんだ?」
 三人はキョロキョロと辺りを見回した。しかし誰もいない。
「ココ、ココじゃよ、若いの」
 ジークの背中を誰かがコツコツと杖でつついた。
 ジークはくるりと後ろを振り向いた。が、やはり誰もいない。
「あれっ? おっかしいなぁ……」
「えーい、鈍い奴らじゃな! さっきからどこを見ておる! ココじゃと言っておろうが!!」
 少し怒った声が、下から聞こえてきた。
「えっ?」
 ジーク達は慌てて足下を見下ろした。
 そこにいたのは一匹の猫だった。
 真っ白な毛並みの美しい、丸々太った立派な外見の猫である。首にはピンク色の首輪を巻き、そこにはやけに大きな黄色い鈴が一つ付けられ、キラリと光っている。
 そしてその白猫は、自分の背丈よりも長い杖を片手に、二本足で--立っていた!
「……………………」
 凝固したジーク達を見て、その白い猫はおもむろに口を開いた。
「なんじゃ? 命の恩人に対して礼も無しか?」
 凝固が解けた。
「うわぁぁぁ、猫がしゃべったぁ!!??」
「うそ、うそっ、うそ~~~!?」
「し、しかも立ってるし!!??」
 たちまちパニックに陥るジーク達。
「やれやれ、しょうがない奴らじゃのぅ」
 猫は呆れたようにして右手でひげを引っ張っていたが、やがて杖をかかげて何やら呪文を唱え始めた。
 ボッ! ごく小さな火の玉が杖の先から空めがけて飛び出す。
 ひゅるるるる、火球は次第に大きさを増しながら昇って行き、遂には何十倍もの大きさに膨れ上がった!
「爆裂!」
 猫がスッと杖を振ると同時に、火の玉が光った!
 どっぐわぁぁぁぁぁぁん!!
「わっ、わ~~~っ!?」
 突然の閃光と大音響に、ジーク達は肝を潰してひっくり返ってしまった。
「う~む、《爆裂火球(ファイヤー・ボール)》はやはり打ち上げ花火の代わりに使っても風情があるのぉ。まぁまだ昼間なのが残念じゃが」
 猫はそんな三人を尻目にしみじみとつぶやいた。
「あ……あなたは一体何者なのですか?」
 驚きでパニックが解けたヒョウが、同じ魔道使いとして畏敬の念を込めて尋ねた。
「あれだけの魔道を使うところを拝見すると、もしやどこぞの大魔道士様が変化しておられるのですか? それとも猫の身体に憑依しておられるとか?」
「いや、ワシはただの猫じゃが」
 あっさりと答える猫。
「……ただの猫が二本足で立ったり、杖持ったり、しゃべったり、魔道使ったりはできるってのかよ」
 ジークが思いっきりいぶかしげな視線を猫に送りつけた。
「細かいことを気にするのぅ。お主は」
「どこが細かいんだよ!」
「まぁいいわい。話してやろう。確かにただの猫というのはウソじゃがな」
 ホッホッホッ、猫が気楽に笑ってみせる。
「さてと、じゃがその前に……おい、そこの小娘や」
「は、はい!」
 びくっ、突然声を掛けられたクリスが、何を言われるのかと身構えた。
「……茶を入れてくれんかの。後、お茶受けに干し魚などもな」
 ずりっ、思わず三人がずっこける。
「え、あ、あの、そんなの無いんですけど……」
 おずおずと答えるクリス。
「そうか、まぁ仕方がないのぅ」
 残念そうに首を振る猫にクリスが尋ねた。
「それくらい魔道で何とかならないの?」
「おお、そうじゃ忘れておったわい!」
 猫はポンと手を打つと、続いてとんでもないことを口走った。
「どーもいかんのー、三千年も生きておるとボケてしもうて」
(さ、三千年……!?)
 三人は唖然と息を飲んだ。
「さて、では一丁いくとするかの……」
 自称三千歳の猫は、そんなジーク達の視線を気にも留めずに、杖を高々と掲げた。
「--天と地の狭間に潜みし偉大なるものよ! 我、望む!」
 その瞬間、猫の全身が青白い霊光に包まれる!
「あっ、あの呪文はっ!?」
 猫の唱え始めた呪文にヒョウが思わずのけぞった。
「ヒョウ、知ってるのか!?」
「で……伝説の《祈願(ウィッシュ)》の呪文だっ、上位精霊に働きかけることによってどんな望みでも叶えるという、数ある魔道の中でも究極と言われる呪文の一つ! あ、あの猫、一体どんなレベルの使い手なんだぁ!?」
 ヒョウの驚愕をよそに、猫の呪文の詠唱は続く。
「願わくば我が望みを聞きとげよ、偉大なる天地の精霊よ!!」
 カカッ!! 猫が叫ぶと共に天の一角が激しく光った!
 --我……聞けり……。
 天から響く何者かの声と共に、まばゆい光に包まれた何かがらゆっくりと猫の前へと降りてくる。
 その何かとは……もうもうと湯気を立てている--湯飲みであった!
「うーむ、うまいわい。やはり偉大なるもののたてたお茶は一味違うのぅ」
 そこはやはり猫舌らしくふうふう息を吹きかけると、猫はズズッとお茶をすすった。
(ま……魔道を志す者多しといえども、それを修得できる者は数える程しかいないという《祈願》の呪文を……た、たかがお茶を出すために使うとは……)
 もはや開いた口がふさがらないヒョウの前で、猫はあくまでもお気楽な様子で、うまそうにお茶をすすっていた。

      ※      ※

「そろそろ種明かしをするとの」
 お茶を飲み終わって満足気な様子の猫が、ひげを引っ張りながら語り始める。
「ワシは実はルーマ神の飼い猫なのじゃよ」
「ル、ルーマ神だってぇ!?」
 その言葉に、三人は同時に驚きの声を上げた。
「ル、ルーマ神て……まさか《光》の最高神ルーマのことかよ!?」
「そうじゃよ」
 事も無げに猫がうなづく。
「まぁワシももともとは普通の猫だったのじゃが、子猫の頃捨てられていたのをルーマ様に拾っていただいたのじゃ。懐かしいのぉ」
 あの日は冷たい雨が降っていたのぉ……まるではるか遠くを見つめるように、猫が目を細める。
(雨の日に捨て猫を拾う神様って……)
 クリスは一瞬想像しかけたものの、やっぱりどうしてもイメージが浮かばない。
「それからワシはルーマ様からペットとして可愛がられる一方で、魔道の力をも授かったのじゃ。そして《神魔戦争》によってこの世界からルーマ様が去られた後は、その『代理人(エージェント)』として働いておる」
「……なるほど、ふつーの猫じゃないことは良く分かったけどよ、じゃあ何でまた俺達を助けてくれたんだ?」
 ジークがズバリと切り込んだ。何か裏にありそうだ、と直感が告げている。
「今言ったじゃろ? ワシはルーマ様の『代理人』。ルーマ様からお主達を助けてやるように命じられたのじゃ。そして同時に、お主達に資格があるかどうかを試してくるように、とな」
「え、資格って?」
 クリスが興味をひかれて尋ねる。
「お主らが《竜の支配者》を倒せるかどうか。そしてそのために……」
 猫はそこで一旦言葉を切った。
「そして……?」
 だが猫はすぐには答えずに、後ろを向いて何かごそごそやっていたが、やがてどこから取り出したのか小さな箱を手にして振り返った。
「ほら、開けてみるがよい」
 ポンとジークに向かって放ってみせる。
 ジークが箱を開けると、三人は顔を並べるようにしてその中をのぞき込んだ。
 箱の中には、剣の柄のような物が納められていた。
 それは太陽神であるルーマの紋章が彫り込まれた実に美しい柄だった。だが、当然それに付けられているはずの刃の部分が全く存在せず、そしてルーマの紋章の中央、日輪を形どる円の部分がまるで穿たれたようにくぼんでいる。
「何だよこれ? これがどうしたって言うんだよ?」
 戸惑うジーク達に、猫が答える。
「資格というのはな、その剣を使いこなすことができるかということじゃ」
「剣……て、柄だけじゃねぇか?」
 ジークは柄を手にとって色々と調べてみたが、別に突然刃がせり出してくるとか、光がほとばしって刃になるとかいうリアクションは起こらない。
「今はそうじゃ。だが、その剣が完成した時……その力は天を裂き、地を砕く」
 猫の言葉にジーク達は思わず息を飲んだ。
「その剣はかつてルーマ様がその手にし、《闇》の神々と闘った伝説の超聖剣--」
 猫は重々しく三人に向かって、その剣の名を告げた。
「その剣の名は、退魔光剣シェルザード。またの名を《神の右手》と呼ばれる剣じゃ!」

      5

「退魔光剣シェルザード!?」
 猫の言葉にジーク達は一斉に叫んだ。
「さよう。お主らも名ぐらいは聞いたことがあるじゃろう」
 今度は全員が一斉に首を横に振る。
 ずりっ、猫は拍子抜けたようであったが、気を取り直して話し始めた。
「まぁ三千年も前の話じゃから無理もないか……。仕方ない、話してやろう。あれはかつてまだ《光》と《闇》が一つだった頃の事じゃ」
 猫が少し遠い目をして続ける。
「大いなる《混沌(カオス)》からこの世界を創り出された創造神ディーンは、世界が無事に出来上がったのを見届けると、後の事は二人の息子--太陽神ルーマと月の神バドウに譲り、自らは新たな世界を創るべく別の次元へと去ったのじゃ。その際、ディーン神は自分の剣を形見に残された」
「それがシェルザードなの?」
「いや、正確に言うと違うのじゃ。剣は一本、息子は二人。そこでディーン神は剣を二つに分けてそれぞれを息子に与えたのじゃ。ルーマ神には《光》を司る者として剣の表を、バドウには《闇》を司る者として剣の裏側を--兄弟力を合わせてこの世界を守るようにとな」
「……でも、バドウと言えばこの世界を滅ぼそうとする暗黒の破壊神のはずでは?」
 ヒョウが納得いかなそうに問いかける。
「うむ。まぁやはりいくら兄弟神とは言え、《光》と《闇》はやはりお互い相容れない存在だったということじゃな。その後、両者は仲違いし、《神魔戦争》と呼ばれる《光》の神々と《闇》の魔神達との、世界を二分しての壮絶な闘いが勃発した」
「で、どうなったの??」
「二人の神は互いに父ディーン神より与えられた剣で切り結んだ。その時にルーマ様が右手にしていた剣が《神の右手》シェルザードじゃ」
「で、ルーマがバドウを倒したんだな!」
 壮大な神々の闘いの話に思わず興奮気味のジークだったが、それに対して猫は少し寂しそうに首を振った。
「いや、正確に言うと引き分けじゃな。熾烈な闘いの末、確かにバドウと配下の魔神達はこことは別の時空間である《魔界》へと封印された。しかし、ルーマ様をはじめとする《光》の神々もまた、その代償に全ての力を使い果たし、神々が住まう《天界》から出てこられなくなってしまった。そのためこの世界から神々はいなくなり、世界は人間の物になったのじゃ」
「で、シェルザードはどうなったんだ?」
「それがの、シェルザードは最後の戦いで、バドウの剣によって壊されてしまったのじゃ」
「えー!? 壊されちゃったの??」
「慌てるでない。確かにシェルザードはバラバラに壊されてしもうたが、そのパーツさえそろえば、また元の様に再生させることができる」
「パーツ?」
「一つはその柄じゃよ。そして刃の部分になる《オリハルコン》が二片、柄にはめる宝珠《太陽石》--その四つがシェルザード再生に必要な全パーツじゃ。その全てがそろった時……」
 猫の目がキラリと光る。そしてまさに神のお告げがごとく、三人に重々しく告げた。
「《神の右手》は完全に復活する!」
「……伝説の《神の右手》、か……」
 戦士としての本能からか、ジークは思わずぞくりと肌が泡立つのを感じる。
「……で、オレ達にそれを集めろ、と?」
 だがそんなジークに対し、ヒョウは多少冷静だった。
「話はわかったが、なぜそれをオレたちがしなければならないんだ?」
「そりゃぁ簡単じゃよ。今のお主らじゃ正直、弱すぎて話にならんからじゃ」
 あっさりと言い放たれて、ジークとヒョウはガクッとこける。
「さっきの敵と闘ってみてわかったじゃろ。確かにお主らはそれなりには強いかも知れぬが、これから先はこれまでとは比べ物にならぬ程の怪物達がお主らを待っておる。シェルザードぐらい無くては--これは脅しではないぞい--一歩《竜の台地》に足を踏み入れただけで全滅じゃな。もしお主らが本気で《竜の支配者》と闘う気なら、シェルザードを復活させるしかないのじゃよ」
 口調はひょうひょうとしているものの、辛辣きわまりない猫の言葉に、三人は思わず静まりかえってしまった。……実のところ、事態をそこまで深刻に考えていたものはだーれもいなかったのである。
 だが、
「面白ぇ……」
 その重い沈黙を破ったのはジークだった。
「てことはシェルザードとやらがあれば勝ち目があるってことだな」
 そうつぶやくと、不敵に笑うジーク。
「やってやろうじゃねぇか。シェルザードは絶対甦らせてみせるぜ! そして資格とやらがあるかどうか、試させてもらおうじゃねぇか!」
「このままやられっぱなし……てのはオレもプライドが許さなくてな」
 続いてヒョウも前髪をかき分けてフッと笑う。
「オレも試させてもらうことにしよう」
 ジークとヒョウは珍しく顔を見合わせると、ニヤリと笑いあった。
「なら決まりね! もちろんボクも行ったげるよ☆」
 そんな二人の様子を見て、クリスもまたにっこり笑うと元気良く宣言した。
「うむ、よくぞ言った。それでこそルーマ様に選ばれし者たちよ。ならワシも言い付け通り、お主らをシェルザードのもとへ導いてやろう。なーにワシにまかせとけば安心じゃぞい」
 ホッホッホッ、満足げに笑う猫にクリスがパチリとウインクしてみせる。
「頼りにしてるよ、猫さん☆」
「ニャーゴロ」
「えっ……?」
「ニャーゴロと呼んでくれ。ルーマ様はワシのことをいつもそう呼んでおる。あと呼び捨てで構わんぞい」
「じゃあお願いね、ニャーゴロ☆」
 クリスはクスッと微笑んだ。
 だがそのとき、それまで黙ってじーっとニャーゴロの姿を眺めていたジークが、ぼそっと口を開いた。
「ただなぁ……仲間になってくれるのはありがたいんだけどよぉ……」
 困惑したような表情を浮かべてジークが続ける。
「でもやっぱ改めて考えてみると、猫がしゃべったり二本足で立ったり、魔法使ったりするのはどうにも違和感があるんだよなぁ……」
「そうか? では……」
 ニャーゴロが何やら呪文を唱えると、不意にその身体がボンと煙に包まれた!
「!?」
 煙が薄れると、そこには白猫の姿はなく--代わりに立っていたのは薄紫色のローブに身を包み、ストレートの銀髪を腰まで伸ばした、二十歳前後の美しい乙女であった!
「なっ!?」
 突然の美女の出現にジークが思わずザザッと後ずさる。
 その知的で清楚な雰囲気の乙女は、怯えるジークの様子を見てくすくす笑うと、印象的な切れ長の黒い瞳を優しく細めて問いかけた。
「どうです、ジーク? この姿ならよろしいですか?」
「……ま、まさかニャーゴロか!?」
 確かに良く見れば、片手にしている杖もニャーゴロが持っていたものだし、服装とは場違いに首に巻いているピンク色の首輪と黄色の大きな鈴も同じものだ。
「正解です♪」
 銀髪の乙女は右手の人差し指を立ててにっこりと微笑むと、唖然としている三人に向かって語りかける。
「まぁ確かにルーマ様の代理人として働くには、人間の格好をしていた方が都合がいいことも多いのでな。その場合はこの姿を使うようにしておるのじゃ」
 口調こそ元に戻っているが、見かけ同様ずいぶん可愛らしくなった声で、銀髪の乙女もといニャーゴロはクスクスと笑った。
「……って、何でよりによって『女』なんだよ!!」
「もしかしてメス猫だったんだ!?」
 恨めしそうなジークの叫びに、クリスの驚きの声が重なる。
「いんや、ワシはもちろんオス猫じゃよ」
 あっさりと答えるニャーゴロに、一同は思わずずっこけた。
「単純な話でな、『神の代理人』というワシの役目柄、『ルーマ神の巫女』みたいな設定にした方が話が早いことが多くてな。しかも大体依頼する相手は男だから、美女の頼みとかにした方がやる気にもなってくれるしのぅ。ヒョウ、お主なら《銀の聖女》の伝説くらいは聞いたことがあるじゃろう?」
「《銀の聖女》……って言えば確か《英雄戦争》の六英雄の一人……」
「ほぉ、さすが自分の家のルーツぐらいは知っておるようじゃのう」
 満足げに微笑むニャーゴロ。だがその一方でジークとクリスはひそひそと小声で言葉を交わしていた。
(ねぇジーク、《英雄戦争》って何?)
(……いやその俺はどうも「歴史」ってのが苦手でな……)
(アースラルで一番古い「聖王家」って自慢してたくせに……)
「二千年前、《闇》の魔道の力でこの大陸を支配しようとした《魔道皇帝》ガーランドと、それに立ち向かった六人の英雄達との間に起こった戦いのことですよ」
 そんなクリスの様子を察して、ヒョウが詳しく説明する。
「そのときに英雄達が《魔道帝国》を滅ぼして建国したのが、今の古王国と呼ばれる国々なんです。『魔法戦士』が建国したのが我がライデルで、続いて『戦士』がトロキアを、『僧侶』がアルカディアを、『武闘家』は東方に渡りカイザンを建国しました。まぁ『盗賊』は国こそ作りませんでしたが、その後『盗賊王』と呼ばれる存在になったと言われています。だが、ただ一人だけその後の消息が一切不明な英雄がいて、それが圧倒的な《光》の魔道の力でパーティを支えた謎の美しき『魔道士』……名前も伝わっておらずただ《銀の聖女》とのみ……」
 そこまで説明した瞬間、何事かに気が付いたヒョウの目が驚愕に見開かれた。
「……って、まさか!?」
「ようやく気がついたようじゃな。そう、ワシこそがその時の《銀の聖女》じゃよ」
 ニャーゴロはふふんと胸を反らしてみせた。
「あの時は最初から最後まで「女」で押し通したから、他の五人からもててもててホント困ったわい。まぁ、その分、皆、ワシに良いところを見せようとがんばってくれたがのう」
 そう言ってクスクスと《銀の聖女》様が可愛く笑う前で、三人の顔にはどんよりと陰がかかっていた。
(うっわー……タチ悪ぅー……)
(お、俺たちのご先祖様はこいつにもて遊ばれたのか……)
(うう……伝説の美女である『銀の聖女』の存在には、小さい頃からロマンを感じていたのに……)
 だがそんなドン引きぶりなど全く気にした様子もみせず、《銀の聖女》はちょっとだけ懐かしそうに目を細めてジークとヒョウの顔を見比べた。
「ふむ……こうしてみるとやはり面影があるものじゃな。まぁ二千年ぶりにあやつらの子孫を助けてやることになったのも何かの縁というもの。ありがたく思うがよいぞ」
 そう言うと、突然《銀の聖女》はジークの肩に手を回すと、急に口調を変えてささやきかけた。
「で、話を戻しますけれど……」
 そして至近距離に迫った美女の顔に怯えまくるジークに、《銀の聖女》はうふふ♪っと悪戯っぽく笑ってウインクまでしてみせる。それは二千年前に五人の英雄の心を狂わせた、まさに魔性の微笑みであった。
「どうです、ジーク? この姿ならよろしいですか?」
「……すいませんすいません、俺が悪かったです。お願いですから、猫の姿のままにしてください」
 ガタガタと半泣きで謝るジークに、《銀の聖女》はコロコロと笑う。次の瞬間、再びその姿が突然の煙の中に消え、後には元の白猫の姿に戻ったニャーゴロが満足そうに目を細めて立っていた。
「わかればよいのじゃよ、わかれば。まぁワシももうさすがに年なので、けっこー乙女のフリをするのも疲れるんじゃ。やっぱ自然でいるのが一番じゃな」
(そのわりにはけっこーノリノリだったような……)
 思わず苦笑するクリス。ジークなんかはよほど怖かったのか、まだ少し震えている始末だった。
「さて、では少し脱線してしもうたが……」
 コホンとニャーゴロは咳払いをすると、手にした杖を勢いよく天に向けて突き上げた。
「では改めて……行くぞ皆の者! これよりシェルザード復活の旅の始まりじゃ!」
「おうっ!」
 気を取り直して三人もそれぞれの武器を天に掲げる。太陽の光を受けて、刀身が煌めき、まるで一行の旅立ちを祝福してくれているかのようだった。
 ……が、
 その時、それまで晴れていた空がにわかにかき曇ると、いきなりポツリポツリと大粒の雨が降り出した。
「……な、何かいきなり縁起悪いんですけど」
 一転して盛り下がるジーク達に、ニャーゴロがまかせておけとばかりに胸をたたいてみせた。
「ホッホッ、安心せい。これしきの雨をやませるなどたやすいことじゃ」
「えっ、そんなこともできるの!?」
 驚くクリスに、もちろんじゃと軽く答えて、ニャーゴロは呪文の詠唱を始めた。
「まぁ見ておれ、ワシの実力を。ではゆくぞよ、ラナーク・ラナーク、マリーク・マローク……」
 
      ※      ※

 ドシャーーーーーー!! 数秒後、たたきつけるような雨がジーク達を襲っていた。
「ばかやろー! 誰が豪雨にしろって言った~~!」
 全身ずぶ濡れのジークがわめく。
「あはは、まぁちょっとした調整違いじゃ。いかんのー、年をとると」
「カ、カゼひいちゃうよ! 早く止めてっ!」
「うむ、安心せい。今度こそはちゃんと……の」
 再びニャーゴロは呪文を唱えた。

      ※      ※

「ま……前よりひどくなったじゃねぇか!!」
 確かに雨は止んだものの、代わりに凄まじい吹雪がジークらの周りを吹き荒れていた。
「ど……どうやら呪文そのものを間違えたようじゃのぅ……」
 ニャーゴロはガタガタ震えながら答えた。猫は寒さに弱いのである。
「どーすれば《天候変化(コントロール・ウェザー)》と《氷の嵐(アイス・ストーム)》の呪文を間違えるんです!?」
「てめー本当に頼りになんのかよ!?」
「あ……安心せい。まだまだ耄碌はしておらん……今度こそ! ベラリロール、マクタラ-ル……あっ、こりゃ《竜巻(ストーム)》の呪文じゃったわい」
 こりゃまいった、と頭をかくニャーゴロに、三人は一斉に叫んだ。
「いーかげんにしろっ!!」

      6

 辺り一面を雪に埋もれさせた吹雪もようやく止み、ニャーゴロの先導の下、ジーク達がシェルザードのパーツを求めて出発して行ってからしばらくして、降り積もった雪の一角が突然、もこっ! と盛り上がった。
 もこっ、もこっ! どうやら雪の中で何かがもがいているらしい。
 ぼこっ! やがて一本の腕が雪を突き抜けると、一人の男が息も絶え絶えに這い上がってきた。
「し……死ぬかと思った……」
 ぜー、ぜー、男は荒く息をつくと、全身の雪を払い落とした。白い雪の下から、漆黒のローブの姿が露わになり、周囲の銀世界と鮮やかな対比を見せる。
「それにしてもあの猫……何という魔道の使い手。まさか、この私が隠れていたことに気付いていたとでもいうのですか?」
 それはいささか買い被りすぎではあったが、とにかくガロウ四天王の一人、魔道士ゴブは雪に押しつぶされていたからとは違う理由で身震いした。
「ですが……」
 ゴブはジーク達の去った方向をにらむと、不気味な笑みを浮かべた。
「私にとどめを刺さなかったのは失敗でしたねぇ。ヒヒヒ……よいことを聞かせていただきましたよ」
 ゴブの瞳が暗い光を宿す。
「《神の右手》シェルザードですか。これは是非ともガロウ様のお耳に入れませぬとなぁ、イヒヒヒヒ」
 ゴブは一人ほくそ笑むと、低く呪文を唱え始めた。
 呪文の詠唱に合わせて、ゴブの周りの空間が次第に歪んでいく。
「……《転移(ワープ)》!」
 ゴブが叫ぶと同時に、その姿が空間の歪みに包み込まれる。そして一瞬の後には、ゴブの姿はかき消すようにして消え去ってしまっていた。
 後にはただ、ニャーゴロの魔道が残した雪の名残だけが、太陽に光を浴びて静かに煌めいていた。

(第四章へ続く)

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